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京都地方裁判所 昭和23年(公)1069号 判決

被告人 大原こと金斗五こと邵乙鶴

大一五・三・二七生 土建従業員

主文

被告人を免訴する。

理由

本件公訴事実の要旨は、被告人は李水漢等二、三名ずつ組となり共謀して、或は胴元となり或はさくらとなり、もや返しと称するピース煙草の箱三個を用い中一個の裏に印をつけそれを当り箱とし三個の箱を巧みに置き替えて、客に金銭を賭けさせ、当り箱に賭けたものが勝とし、客が勝てば賭銭の倍額を支払い、客が負ければ賭銭を没収する方法、又は竹博奕と称する紙に赤黒のハート形を描き竹片二本に赤と黒の印をつけ一本の竹を紙上に置き、客に赤黒のハート形に金銭を賭けさせ、竹の色と金銭を賭したハート形の色とが一致すれば勝とし、客が勝てば賭銭の倍額を支払い、客が負ければ賭銭を没収するという賭博を街頭に於て行い、賭具であるピース箱又は竹片に目印をし又はその置き替えに巧みな手段を用いて、客を欺罔し、又はさくらに殊更に当り箱に賭金させ或はさくらが賭金である箱を当り箱であると偽り以て客を欺罔して金銭を騙取することを企て、昭和二三年四月頃より数回に亘り、京都府淀競馬場附近その他に於て、又同年五月一二日午前一〇時頃京都市中京区三条通り大橋西詰附近路上に於て、李水漢、戸田戒生、山崎修二が何れも胴元となり、被告人、本多末野、有沢千代子、金清一は何れもさくらとなり、もや返しと称する手段により、森下正勝は竹博奕と称する手段により、また安一義は之が見張をなして、各巧みに通行人を誘い金銭を賭せしめて、手段を用いて客を欺罔し、賭金名下に客の金銭を騙取せんとして通行人を誘い集め、通行人たる滋賀県野洲郡兵主村字堤北出三男外三名より合計七千九百円相当を騙取した。とゆうにある。そこで、被告人の当公廷における供述、第一回公判調書中李水漢の供述記載、司法警察官の被告人及び李水漢に対する各被疑者尋問調書の記載、検事の李水漢に対する聴取書の記載、その他諸般の証拠を綜合すると、被告人は、昭和二三年五月一〇日頃から同月一二日頃までの間前後三回にわたり、京都市中京区三条通大橋西詰附近路上において、李水漢、金清一、安一義等と共謀の上、通行人北出三男等数名を誘つて相手方とし、ピース箱三個のうち一個の裏に印をつけて当り箱とし、これらの箱の位置を巧みに置き替えて当り箱に賭けさせるとゆう方法により、俗にもや返しと称する賭銭博奕を常習としてした事実を認めることができるが、右の方法は被告人等のピース箱の巧みな操作により相手方の錯覚を招くことがあるにとどまり、箱の隠蔽、取り替え、その他相手方を錯誤に陥れる程度の欺罔手段が用いられたと認めるべきでなく結局被告人の所為は、刑法第一八六条第一項の常習賭博罪を構成するに過ぎないものと断定するほかない。

そして、常習賭博罪の法定刑は三年以下の懲役であることは右法条により明らかであり、その公訴時効が三年の経過により完成することは、本件が刑事訴訟法施行前の起訴に係ることによりその適用を受けるべき大正一一年法律第七五号刑事訴訟法第二八一条第五号に明定するところである。しかるに、被告人に対しては、昭和二五年二月二七日公判が開廷され、且つ同日共犯者李水漢に対し判決の言渡がなされて以後三年の期間中において、公訴時効を中断すべき裁判上の処分がなされたことを認める資料は見当らない。そうだとすると、被告人の前記所為に対しては、同二五年二月二七日以後三年の徒過により公訴時効が完成したものとゆうべきであるから、同刑事訴訟法第三六三条第四号を適用して被告人に対し免訴の言渡をすることとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 橋本盛三郎)

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